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chibiniru's novels

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 別段相手に何かを望むわけでもない、ただ自分の時間が少しなりととれること、そしてなるべくなら、趣味が同じで、一緒に居て気が楽な相手がいいと思う。面白みが無かろうが、真面目だろうが構いはしない。
 ただたとえて言うなら、背中をあわせ支え合って座って、お互い別のことをしていられるような、気安さがあればいいと思った。
 たったそれだけのことだ。金がなかろうと、ルックスが悪しかろうと気にしない。たったそれだけが、何故か難しい。
 男にも、そんな思いをすることはあるのだろうか。男性諸君にも聞いてみたいものだ。

 お互いが思いやり支え合って、でも互いを尊重して生きていける方法があればなんて幸せなんだろう。

 残念なことにそれが現在成り立っていると感じるのは理恵との間にだけなのである。
 必然外へ出て遊ぶことも少なくなり、出会いの場所は尚更制限される。寧ろリアルで紹介された相手に会うことすら億劫だし、煩わしいのだ。
 年を取ったのかも知れない。幼稚園児に「おばさーん!」と指さされる年齢である。

 でもやはり子供の頃からの無感動無関心が尾を引いているのだろうと結論に至り、現在はあまり無理に他人と関わろうとしなくなった。無理したっていいことは無い。相手にとっても、自分にとっても。
 孤独が好きなわけではない。現にネットで理恵とは毎晩のように会話している。
 子供を産むのは人間として生まれた義務としても、相手が居なければ産めるわけもない。
 であればやはり、相手は必要だ。
 そうやって誰かを捜しているのはしかし、寂しがりなわけではない。
 ただ他者が居ないと生きていけないとは思っている。
 そんな全てについて面倒だな、と思う。つがいが見つからなかった男と女集めてどっか施設で皆で共存出来たらいいんじゃないのとか思ったりもする。
chibiniru 9 page of 嫁げない彼女。
 ネットでの浮気をしなくなったのは理恵という愛しい女性がいるからである。リアルは別だ。

 リアルでは数ヶ月前に十数年も付き合った男と別れたきり、独り身である。
 この世知辛い世の中で、家付き、婆付き、長女とくれば必然もらい手が減る。婿養子に来てくれる相手なんてほぼ皆無と言ってもいい。役所が主催するお見合いなんかに行ったこともあるが、どうにも自分に合わなくて結局行かなくなった。
 親が進めてくれる相手は悪くないとも思う。しかし前のめりになっていい、と思うほどでもない。
 基本的に恋愛感情という感覚以上に他人に対する愛情がかなり希薄な奈美は、友達以上に人を愛することが難しい。家族であれば愛していると言えるのに。

 それでも、と奈美は思い出す。

 高校生の頃は、あれが恋愛だったと思える思い出が無いでもない。十数年付き合った男も、初めの頃はとてもいい男に見えた。人付き合いが上手く、誰とでも友達に慣れるタイプのように。
 そんな彼と手を繋いだときは、それだけで幸せだなと思ったものだった。顔が赤くなった自分に「どうした?顔赤いな」と問われた時には、何でもないと答えながらもっと赤面したものだった。
 甘やかで純真な恋の時期というのは、容易く過ぎ去っていくものだ。
 またそこまでの感情を持たなきゃならないのか、と思うと、難しい気がした。
 そんな風に好きになることはもう多分、一生無い気がしたから。
 他人と一緒にいて安堵したことなんてほとんど無い。関心が薄いせいもある。気を遣うから、安堵出来ないんじゃない。
 どうでもいいから、気に掛けてないのだ。
 やっぱり自分は欠陥人間なのだろうか。
 それとも高校生の頃に、あの感情だけ置いてきてしまったんだろうか。
chibiniru 8 page of 嫁げない彼女。
 理恵は最初はなかなか自分のことを話してはくれなかった。それは、ネットでの顔の見えない付き合いのせいもあるだろうと、奈美もまた深く追求することはせず、寧ろ話してくれるのを待つつもりでいた。日々のことや、仕事のこと、家庭のこと、リアルの友達のこと。そういう会話はほとんど無かった。
 年齢が近いことも相まって、会話といえば政治や日本の未来やらが多かった。あとは趣味のなりきりやネットゲームの話やらと、お互いが好きだから睦言みたいなことも言い合ったりした。
 正直足りないと思ったことは何度もある。もっと知りたいと思うのが好意を寄せている証拠だと思うからだ。だから時々不安だった、一方的に付き合わせて、好きになっているのは自分ばかりなんじゃないかと。
 だから自分が他の人と遊んだりしている時に彼女が嫉妬したりしてくれることは、酷く奈美を安堵させた。
 必要とされなくなることは、奈美にとって恐怖だった。

 彼女の方が年上だったけれど彼女はとても可愛い人だった。不安になって嫉妬して、だけど責めるでもなく悲しむ。そういう姿にとても切なくなる。
 だけど顔も見えない、声も聞こえないモニタの向こうの恋人を、何も知らないまま愛しているのは奈美だって不安だった。

 何度目かのネットの不実に、破局にも似た状況が二人にも訪れた。
 リアルで男に振られることより怖かった。だから、彼女を失いたくない奈美は、自分の過去を全て彼女に話したのだ。
 隠していた過去も全て暴露して、信じて欲しかったのだ。
 そうして得たのは、彼女の自分よりも重くて辛い過去だった。

 そして気付いたのだ。自分が彼女を失う不安ばかり考えて、彼女の気持ちを一つも考えていなかった自分に。

 二人して一晩中泣いて、それから奈美はネットの中での浮気をしなくなった。
chibiniru 7 page of 嫁げない彼女。
20XX/07/21 ── XANXUS

 日記があいたのは色々と忙しかったせいだ。別に他意はない。
 カス鮫が盛って離さなかったとかそういうことじゃない。断じてない。あいつの下半身に付き合ってるとこっちの身が持たないことはよく解っている。
 たまり溜まった仕事をやっつける間にも秋波を送ってくる鮫は無視して書類に向かう。今夜も来たらふんじばってドアの前に放置してやる。多分弟がどうにかするだろう。

 カス鮫の事は好きだ。面と向かっては言ってやらないが、多分あいつの傍にいると落ち着くのは、そういうことだろうと思う。
 どういう経緯でそうなったのかいまいちはっきり覚えていない。最初は殆ど襲われたと言ってもよかった気がする。なのに今じゃあれがいないと落ち着かないくらいには染められた自分が居ることを認識している。全く、これじゃ体よく調教されたようなものかとも思うが、これがまた腹の立つことにそう嫌だとも思わない。
 どれだけ自分が奴に傾倒しているのかと思わず自嘲の笑みを漏らしてしまう。

 最近は営業に出るのがつらいくらいに暑い。夏なのだなと実感する。このクソ暑いのに更にクソ暑苦しい鮫が海に行こうと誘いを掛けている。
 外じゃ脱がないぞ。誰のせいだと思ってやがる。脱げねー体にしたのは鮫だ。
 それでもまあ、海に行くのは付き合って遣ってもいいかと思う。
 同じ休みが取れたらの話だが。

 …あいつのことだから無理矢理にでも取るんだろうな…。
chibiniru 7 page of あさりかぞく。
20XX/07/14 ── XANXUS

 ドカス鮫が

  (それ以降文字が掠れて消えている)
chibiniru 6 page of あさりかぞく。
200XX/07/14 ── スクアーロ
 まだ週の半分しかきてねーってのにXANXUSが色っぽすぎて困る。週末まで待てねぇだろーが!無自覚にフェロモンまき散らすなってんだ。
 おかげでこっちは気が気じゃねー。どいつもこいつも色のついた目でXANXUSを見てるようにしか見えねーってのに。
 今日も会議だっつのにだらしなくシャツの胸元開いたままで会議に来たから怒鳴ってやった。放っておくといつまでも直さないので俺がボタンをとめてやる。
 胸元には必ず誕生日に送ったペンダントがあるのを確認しつつ。……もしかして、見せたくてわざと胸元はだけてんのかぁ?だとしたら可愛いことしてくれるじゃねぇか。

 カス共が休憩中に給湯室で珈琲飲みながらだべってた。ほくろの位置の話題で盛り上がってたから、
「XANXUSは左足の親指の付け根にほくろがあるんだぜぇ」
 と言ったら凄い微妙な顔をされた。何でだ。
 その後XANXUSがやってきて頭から珈琲ぶっかけられた。シャツ染みになったらどうしてくれんだ!着替えは仮眠室に置いてあるからいいけど。何で着替えがあるかってのはまあ推して知るべしだ。ちなみにXANXUSの着替えもあるんだぜ。

 週末になったらまたXANXUSと泊まり込みで仕事すっかなぁ。
chibiniru 5 page of あさりかぞく。
 何にもないところにいろんな事を想像して考えて、理恵と一緒に楽しむ。それが楽しい。
 MMOだってただ遊ぶだけじゃつまらないが、そこにキャラを作って理恵と一緒に関係を作ったり背景を考えたりするだけでも楽しいのだ。

 そう、奈美はいわゆるオタク、とかいうやつ、だ。
 大声で言えないのはさほど事情に詳しくないからで、精神的にはどっぷりである。

 毎日毎晩、彼女と遊ぶ。連日である。よほどリアルで家族との予約が無い限りは、全てをこれに費やしている。

 心配されないわけもない、母や祖母はいい相手だと思う人を薦めてくれるし、そういう話があるならなるべく付き合ってあげたいとは思うが、それ以上に自分のこの至福の時間を切り取られるのがとても苦痛だ。
 いわゆる駄目人間なんだろうなと自覚している。
 今の現状に幸せを感じているからなお、掬いようがないのかも知れない。
 それでも、本人が幸せであればいいか、とも思うのだ。

 そして、それ以上に奈美には理恵に対する思い入れが強かった。
 この人のためなら、出来ることはなんだってしたいと、本気で思っていた。
chibiniru 6 page of 嫁げない彼女。
 会話は主にメッセンジャーとツイッター。ツイッターでは朝の会話をずっと続けている。ちょっと前まではキャラを使ってチャットで遊び歩いたりしたものだったが、色々とネットの中でも礼儀とか、そういうものが煩くなってきた昨今、ずぼらな奈美にはあんまり縛りが多すぎて、今じゃネットの中でも彼女と一緒にほぼ引きこもり状態である。自由に遊びたいのもあるが、勿論他人に迷惑を掛けたくもないので、やっぱりこれが一番良いのだと思う。頭の良い人間ではないから、自分に出来る範囲のことをして、なるべく他者に対する迷惑を軽減しようという策だ。

 ──奈美:(*´∀`*)ただいまハニー!うへへへへ
 ──理恵:(°言°)おはよーダーリンv

 通常の会話ではいつも顔文字でなるべく気持ちを伝えるようにしている。が、最近理恵は「言」の文字をはめた顔文字にはまっているらしく、ことあるごとにこの顔を使うのだった。それもまた可愛いと、奈美は思っているわけだが。

 ──奈美:(*´ω`*)゛今日は何して遊ぼうか。
 ──理恵:(*´∀`*)゛えへへー、MMOする?

 リアルでのふてぶてしさやらだらしなさやら、ぐうたらだの怠惰だの使えないだの、そういうことは一応伝えてはいるけれど、会話の最中に見えるわけでもなく、ネットの中では彼女の前ででれでれのダーリンとして奈美は生きている。そこが、奈美の生きる場所になっている。

 リアルに不満があるわけではない。
 家族と不仲でもない(寧ろ三十路越えてるってのに家付きだ)し、料理だって祖母が作ってくれる至れり尽くせりの家庭環境。
 強いて言えば貧乏だがそれはやはり自分が稼いでこないせいでもあるので自業自得と割り切っている。
 じゃあそこに何があるのか。
 そこにはなぁんにもない。だから、自由である。
 そして何より、理恵がいる。
 彼女がいるから、何もかも楽しくて堪らないのだ。
chibiniru 5 page of 嫁げない彼女。
 奈美は妹のように「自分に磨きを掛けて可愛いくなって、何でも出来る完璧な人になるのが楽しい」人間ではない。
 勿論最早血筋であろう「自分大好き」人間ではあるが、そう言った努力をすることにおいて自分を好きになるタイプではない。
 努力と言う言葉は余り好きではないし、自他共に認める愚鈍な女だ。家族にも「使えない」レッテルを貼られている。
 寧ろ太ってるだとか顔が古くさいだとか、化粧でかぶれる皮膚だとか、馬鹿になってんじゃないのと思うような剛毛癖毛の髪の毛だとか、そういうコンプレックスの方が高いがそれを気にしないだけの図太さはある。
 要するに怠惰なだけなんだが。
 自分でも解っているが努力の足りない分だけレベルは低い。そういう低さも解っているから無理に自分を売り込むこともしない。
 それに大体において他人と趣味が合わないので、長時間自分の時間を他人に費やさなければならない付き合いは苦痛なのだ。
 自分のために自分の時間を使う至福をこの上なく愛しているため、独り身なのかもしれない。
 いそいそとパソコンの電源を入れて微笑む姿は半ば変人であるが、自分の部屋がある奈美は全く気にしない。部屋は家の中で唯一気が休まる自分だけの城である。
「さて、起動起動。待ってて理恵ちゃん!」
 理恵、というのがここ数年ずっと一緒に遊んでいる相手だ。
 奈美は自分ではない何かになりきるのが好きで、そういうゲームをしたり、MMOでなりきり交えて遊んだりするのが好きだ。それに付き合ってくれているのが理恵である。
 理恵は奈美より年上だ。ネットの年数は長いが、なりきりでは奈美の方が先輩だ。出会いはとあるなりきりサイトで、彼女が分するキャラを奈美が分するキャラで射止めてから始まる。
 たかがキャラでの「ごっこ」遊びと侮る人もいるかもしれないが、はまると楽しいのだ。
chibiniru 4 page of 嫁げない彼女。
 要するに妹の努力も足りないのじゃないかと思う。
「男ってのは、そういうもんなんだから」
 そう言うと「それじゃ嫌だ」と妹は言う。昔からそうであったが、この妹は自分が一番というところがあった。それをまた隠すこともしないのである。それが可愛くもあり、また鬱陶しくもあり。
 しかし身内だからこそ許せる言動も他人ともなればどう感じるかは推して知るべし、だ。
「お前さんも少しは学習したら?大体最初から自分さらけ出さないから、後になって苦労するんじゃない。かっこつけて何でもしてあげてたら、誰だって楽な方に胡座かくに決まってるでしょ」

「だって!あたし、自分が頑張ってるところが可愛くて好きなんだもん!」
 絶句しかけるが笑って誤魔化すのも姉の役目である。

 半ば本気でそう思ってる妹だからこそ、強いとも思うし、馬鹿だなぁとも思う。自分ではないものほどよく見えるものだ。
 そう思うと自分もまた誰かに「馬鹿だなぁ」と思われているのだろうな、と奈美は思ったりする。

「あ、そろそろ電車の時間。お姉ちゃんありがと、愚痴聞いてくれて」
「んーや。いつでもかけておいで。何だって聞いてあげる」

 これがいつもおきまりの文句。いつでも、とは言うが、妹が決まって姉のところへ電話する時は愚痴を言いたいときだけであることを奈美はよく知っている。つまり彼女からの頼りがない時は、彼女は幸せだ、ということだ。
 電話を切ると一息ついて、パソコンに向かう。会社から帰って一息ついたらこれが日課である。
 そう、これから彼女は至福の時間を過ごすのだ。
chibiniru 3 page of 嫁げない彼女。

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