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「しっかし・・・よぉ」
尾羽根の抜けたインコは微動だにしないリンに向き直り、確認がてらツンツンと彼女の手を突っついてみた。
「こいつマジで女か? マサムネのこと話しただけでいきなり襲いかかってくるしこの有様だし」
軽いスキップで彼女の肩口へと飛び移る。
「あー、やっぱり全然胸無いわ、つーかぺったんこだもんなー、こーいうのってだいたいオトコみてーなオンナだって俺様の統計データに記録されてるんだわ、まぁ俺様は鳩胸・・・じゃないボインちゃんにしか興味ないし」
そのぺったんこという言語に、一瞬リンの指がピクリと動き出した。
「だいたいさー、胸のない女に存在価値なんてねーっつーの。向かいに住んでるクッキーちゃんだって一つ先のマリンちゃんだっていい胸してンぞ、やっぱり女性はふくよかな胸に限る! 俺様は断言できるな、こーんなぺった・・・」

べしっ

最後まで言い終えぬうちに、ミドリの身体が床へと叩きつけられた。
takahanzo 227 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
「ミドリ! 魔法は同胞に対して使うものじゃ・・・!」
「バーカ言うなシロ、お前ですら止められねーんじゃこーするしかないだろ? それともナニかい? 俺の鳥肌ヌード見たいってか?」
静止したリンの手を振りほどき、フラフラとミドリはテーブルの上に立ち上がる。
とはいえ、尾羽根の大半が抜かれてしまったその姿はかなりアンバランスだ。
「あー、俺様の方は大丈夫大丈夫。このくらいだったらあとでピーチクのとこに帰って再生してもらえりゃ平気だから」
「ならばいいのですが、彼女の方が」
まるで石にでもなったかのように、リンの身体はピクリとも動かない。
それに伴ってか、さっきまで敵意ムキ出しだった表情も消え失せ、無表情になっている。
「ま、放っておきゃ半日で解けるかな? この魔法は開発途中だし、まだ時間にムラがあるのよ」
「しかし身体を止めてしまうのは、いささかやり過ぎではないですか?」
「ンじゃ、お前だったらどうした? シロ」
突然のその問いかけにため息ひとつ、渋い面持ちでシロは自分の鼻を軽く掻いた。
「リンさんの身体をちょっと弾き飛ばすか、怒りを抑える魔法ですかね」
「怒りって・・・こいつの身体を凍らせるとかか? まぁお前にはソッチの方が簡単かもしれないけどな」
「凍らせてしまったら元も子もないじゃないですか、だいいち僕は・・・」
「あぁ、お前は攻撃の魔法が得意、ンでもって俺様はサポート魔法が得意・・・だもんな?」
シロは軽くうなづいた。
「へっへー、こういう時の魔法の使い手区分けなんだからさ、かたいこと言わない言わない! な?」
ミドリはばさばさと翼で彼の肩を叩く。それはまるで腕と変わらない仕草だった。
takahanzo 226 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
インコの姿とは似ても似つかぬ、夜明けのニワトリのような叫び声がシロの家の中に響き渡る。
「コケッ! やめろ! 羽根は俺様のチャームポイントなんだからこらてめぇお前貴様やめろってこれ以上羽根抜かれたらマジ俺様丸ハダカになっちまうだろ!」
一種のバーサーク状態と化したリン、もうミドリの悲痛な言葉も耳には全く入らない。
尾羽根を抜かれる痛みに耐え、短い鳥足を必死に動かして抵抗はするが、戦闘で最前線に立つリンの腕力には叶うはずもなく、爪は虚しく空を切るだけだった。
「マサムネの悪口はダメですよ・・・ミドリ」この状態ではもう、シロですら手を出せない。
「くっそぉぉぉぉぉ! こーなったら!」ミドリは、鼻先にふわりと舞い落ちた自分の羽根をクチバシでつまみとった。
すぐさまそれを、渾身の力を込めてリンの元に投げつける。
普通なら軽い羽根を投げつけることなど無理なことだが・・・しかしそれはまるで空気抵抗など意味が無いかのように、一直線に彼女の肩口に刺さっていった。
「停羽!」すぐさまその羽根に向かい、ミドリは一言投げつける。

するとその瞬間・・・
リンの身体が、停止した。
takahanzo 225 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
「リ…リンさん、お、落ち着いてください!」
シロの言葉に耳を一切貸さず、彼女の腕は巨鳥をゆっくりと持ち上げていた。
鳥類ゆえに、その大きさに見合わず身体は軽い。
「おおおおお落ち着けけけけけけけ、はははははは話せばばばばわわわわわわわ分かるから…コケ」
「悪口を…」
その言葉と同時に、リンの右手が解かれた。
だが、怒りの込められた瞳は変わらぬまま。
「リンさん、友に免じて許してください…確かに、その…マサムネさんは…えっと、あの」
シロは弁解しようとしたが…しかし、マサムネを擁護する言葉が見つからない。
カウントダウンのように、次はリンの右手がミドリの長い尾羽に伸びた。
そしてその羽根を、手のひらいっぱいにぎゅっと握りしめる。

「いうなあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

リンの怒号と同時に、ミドリの尾羽がブチブチブチと、一気に引き抜かれる。
「コケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
ニワトリの朝の挨拶ににた鳴き声が、村全体に響きわたった。
takahanzo 224 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
「え、マサムネの彼女なの? なんでぇあいつ彼女なんていたんだ! あんなガサツでいつもイライラしててちょっと喧嘩っ早くてバカ力だけは凄くてオマケに風呂嫌いなあのマサムネに彼女なんていたんだ!?」
「ミドリ、ちょっとそれは言いすぎですよ、確かに彼は…その」
「ほらみろシロ、お前も言えねーじゃねーか、だいいち男っていうのは俺様みたいに身だしなみが肝心だろ、見ろこの羽の色ツヤ! 毎日水浴びとスタイリングは欠かしてねーんだぜ! すごいだろ俺様! それに比べてマサムネは一度も風呂しているところ見たことないしよ、つーかあいつは身体も臭いし足も臭いし最低最悪な奴だと思わね? あいつ頭悪いから絶対水虫菌が頭の中にまで浸透して…」
ミドリのマシンガントークの終わらぬその時、彼の首に手が伸びた。
「リンさ…!」
陽光がようやく差し込んできた居間。
そこに映し出されたミドリの姿は、カラスのように大きなインコそのものだった。
手のりサイズのインコが巨大化したかのような、おおよそ数十cmの規格外な体高。
さらに名前とは裏腹に、その羽毛の色は、薄い白の混じった黄色…クリームイエローだ。
その大きなインコ=ミドリの細い首を、リンの鋭い爪の生えた両手ががっしりと掴んでいた。
「コ…コケッ! ナニすんだお前!」
リンの目は怒りを抑えたかのように据わり、ヒクヒクと痙攣している口の端からは、八重歯に似た牙がチラリと見えていた。
「マサムネの…」
「リ…リンさん、お、落ち着いてください!」
シロの言葉に耳を一切貸さず、彼女の腕は巨鳥をゆっくりと持ち上げていた。
鳥類ゆえに、その大きさに見合わず身体は軽い。
takahanzo 223 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
早口かつ途切れることを知らないその言葉に、シロはまた髪を掻き上げる。
「…いま窓を開けますから…静かにしてもらえますか」
「そーだよそーだよ早く開けてくれよ、しかしお前ホントここ最近人付き合い悪くなってきてるよな、なんだっけ市場だっけ? そこに入り浸るようになって来てから全然お前と会ってねーじゃん、そらぁないぜシロ、だいいちお前と俺とは親友だったはずだろ? あ? まさか友だちと思ってなかったりとか?」
「…いろいろ研究することが山積みになってきているんですよ、あなたとは今でも友達です!」
「…あのうるさい鳥かぁ、名前ミドリっていうんだ」
そろそろと、リンがテーブルの下から顔を出す。
「リンさんとはまだ面識がなかったかも知れなかったですね…すいません、ぶっきらぼうでおしゃべりなんですよ、彼は」
そう言ってシロは、リンの後方にある窓ガラスの鍵を開けた。
…と同時に、一陣の大きな塊のような突風が、2人のもとへと吹きこんできた。
しかしそれは風ではなく、一羽の大きな鳥。
その翼から巻き起こされた気流は、彼の部屋に積もった埃たちを砂煙のように巻きあげる。
「ぶひゃっくしゅ! にゃっくしゅん! ひっくしゅん!」
その埃の量にたまらず、リンはくしゃみを連続発射した。
「シロ、お前彼女入れてたのかよ! だったらなんで先に言わねーんだよ、それ分かってるんだったら俺様こんな場所に来たりしないんだってのに全くお前釣れねーよな、しかもネコじゃねぇか、うわー憎いね、このイケメン!」
「ミドリ…この方はマサムネさんの幼なじみのリンさんです、今日は用事があって…けほっ」
ローブの裾で防いだシロだが、やはりその地層のように積もった埃の攻撃には耐え切れなかったようだ。
takahanzo 222 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
黄色い文字たちが、下から上へと勢い良く流れてゆく。

─私たちは知らない間に守られていた…ずっと
─ずっと…その外敵の驚異から守られていた…ってこと?
─そう、垂れ耳の時も、そして卓実クンもね

名前の欄には「ゴエモン」と「アンリ」と表示されている。
その二人の会話文に、シロは何かを感じ取っていた。
「もしかすると…」
「ん?」リンは小首をかしげ、ボードに見入るシロの顔を覗き込んだ。
「この二人は、我々のことを言っているのかも知れません」
「われわれって、あたしとかシロとかのこと?」
「ええ、恐らくそうでしょ…」

その時、突然窓ガラスを小刻みに叩く音が二人の耳に入ってきた。

コココココン! ココココココン!

その音はだんだんと激しさを増してくる。
例えるなら、キツツキが樹の幹に連続してクチバシを打ちつけているような音。
それがまるでマシンガンのように、激しく窓ガラスを叩いているのだ。
「うわっ! ナニいったい!?」
耳をぺたんと手でふさぐリン。
だが、その突然の状況にもかかわらず、シロは椅子から立ち上がり、窓ガラスに向かって一喝した。
「ミドリ、僕はここにいますよ!」
その言葉に、マシンガンの音が瞬時に止む。
さらにシロはたたみかける。
「ちゃんと玄関から入ってきたらどうですか、窓ガラスを壊す気ですか!?」
しんと静まり返る居間。
そして数秒の沈黙ののち、今度はマシンガンの主らしき声が窓ガラスの向こうから聞こえてきた。
「シロ! なんだお前いるんじゃねーか、最近全くいる気配ねーから俺様心配していたんだぜ! つーかおまえんちすっごく汚ねーし窓ガラスまで曇ってスリガラスみたいになってっからいるかどうか全然わかんねーんだもん、この際家の中一切合切掃除しねーと誰も寄り付いてこないぜ、っていうかお化け屋敷っていうのかこれ」
甲高いその声は、窓ガラスを叩く音同様途切れなく続いた。
takahanzo 221 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
─落ち着いてゴエモン…言いたいことは分かる。それに卓実クンも恐らく…《そいつ》に助けられているはず。
─そいつ…って一体、誰のこと?
ボードに現われた黄色い文字列。
それは通常のHorusワールドでの会話文とは違う、シロも初めて見るカラーの会話文字だった。
「なんなのこれ? ココだけ色が黄色くなってるけど」
「……」その問いかけにシロは答えず、ただじっと黄色の文字が流れてゆくのを目で追いかけていた。
「シロ?」彼の顔を覗き込むリン。
だが、その顔は真剣そのもの。
「黄色い文字…確か、どこだったか…聞いたことが…」
記憶の奥底を漁るかのように、シロはくせっ毛の白い髪をわしゃわしゃと掻きむしった。
「オフィシャルだか…インストラクターって…街の人が…」
「シロ大丈夫? なんか思いつめてるみた…」
「そうだ!!!」
リンの問いかけを遮るかのように、突然シロが大声を張り上げた。
「ひゃっ!」
その声にビクリと驚き、総毛立つリン。
真ん丸な瞳はさらに大きくなり、それに同調するかのように頬のヒゲも一斉にピーンと伸びあがった。
「思い出しました! この色違いの会話文は特殊なんですよ!」
「と…トクシュ? って…ナニ?」
リンにはその意味が全く理解出来ない。
「あちら側の人たちは、表立って出せない会話とか内緒話をする時に、色違いの文字で話をするんです。だけど黄色い文字はさらに特別なんですよ」
「っていうと、特別な内緒話…ってこと?」
「そう、この黄色の文字は《インストラクター》という、その中でもかなり偉い人しか出せないと言われてました」
「えらい人…って、権じいよりもえらいのかな?」
「いや、師匠とかとはまた…別ですね」
リンの的を得ない答えに、シロは思わず苦笑した。
takahanzo 220 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
しばらくして気を取りなおしたシロは。持っていたボードをリンの前に置いた。
「マサムネさんの事なんですが…この二、三日で、色々と気になることがありまして」
その言葉にまた、リンのヒゲがピンと立った。
「手がかり!?」
「ええ、マサムネさんらしき人が現われたということが、北方地区の会話ログで分かってきたんです」
「会話ログ…ってなに?」ボードに現れる小さな文字をつんつん突っつきながら、リンは問いかける。
「《あちら側》の人たちの会話がこの板に残るんですよ。それが会話ログというのです」
「…うーん、イマイチよく分からない」
「僕もこの前、ログという用語を知ったばかりですから…間違ってるかも知れません」
乾いた口に紅茶を含み、シロは続けた。
「その会話ログに、ところどころ《青い毛の犬》という言葉が出てくるのですよ。となると…」
「それ…マサムネ以外考えられないよね?」
シロは無言で、コクリとうなづいた。
「となると、北の村の方行けば、マサムネがいるかも知れないってこと?」
「ええ、端的にいえばそうなんですが…」シロの言葉が曇った。
「その会話文は、今から三日前くらいなんです」
「え…!?」
「おそらくそこにはもういないだろうと思いますよ…彼のことですから」
その言葉を聞いて、リンの調子のバロメータでもある頬のヒゲが、まるで水の枯れた植物のように垂れていった。
「ハァ…じゃそこ行っても無理かもしれないってことかぁ」
「それにここからじゃちょっと遠いです、師匠の目を盗んだとしても…ちょっと」
「権じいうるさいもんね…あんまり遠出するなって」
「ええ、ですからまた、ログをたどって地道に調べていくしか…」
落胆したシロがボードに目を落としたときだった。

流れる会話文の中に、今までの文字カラーとは違う黄色い文章が現われてきた。
白い文字列の中に出現した、ひときわ目立つ文字が。
takahanzo 219 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─
「まぁ…リンさんがここに来る理由は一つしかないと思いますけど、ね」
二杯目の紅茶を口にしたのち、シロがポツリと口にした。
「んー!!」その言葉にリンが反応する。
ただ、ケーキを口いっぱいに含んだせいかその言いたいことが口に出せない。
「マサムネさんのこと、ですよね」
「んー! んー!」つかえた胸をドンドン叩き、必至に飲み込もうとする。
「大丈夫ですか、落ち着いて…さぁ」
シロはリンの背中を優しくトントン叩くと、自分のカップの紅茶を彼女の口にやった。
ごくりと、大きな塊がリンの胃袋に流し込まれる音がした。
「うく…ハァ…! あ、ありがとシロ、死ぬかと思った!」
「びっくりさせちゃいましたか、図星で」
「うん、そう。マサムネのこと! その…えーと、モジで分かったのかなって思って、シロに聞こうとしたんだ」
その言葉にシロは苦笑した。
「え、あ…ううん、シロのことも大好きだよ! 物知りだし、紅茶おいしいし、それに優しいし!」
「でも、一番好きなのはマサムネさんなんですよね?」
みるみる間に、リンの顔が赤く染まる。
「うーん、だってあいつはあたしがいないと何にもできない奴だしさ…」
「大丈夫ですよ、僕はリンさんとマサムネさんの仲に干渉する気はないですから」
「カンショー?」聞きなれない言葉だったらしく、リンは小首をかしげる。
「ええっと…要はお二人を邪魔しないってことですね」
「シロは大丈夫だよ、毎日お風呂と毛の手入れは欠かさないしさ、服だっていつもキレイだし」
「それはもう、男子たるもの身だしなみは整えておかないと」
シロの鼻息がちょっと荒くなった。自分としては自慢しておきたいポイントなのだろう。
「あとは部屋が汚くなけりゃ、お嫁さんだっていっぱい来てくれると思うよ」

「え…あ…」
散らかった部屋を見渡し、一気にシロの顔が沈んでいった。
takahanzo 218 page of Horus ─小さなぼくと大きなキミ─

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